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スピーチ等

平成23年度 入学式 学長告辞

東日本大震災で犠牲になられた多くの方々のご冥福をお祈りし、被災された皆様に謹んでお見舞い申し上げます。

これまで経験したことのない大きな被害をもたらした地震と、原子力施設の復旧の見通しも未だ立たない中で、入学の時を迎えました。今日入学式に出席している新入生の中にも被災された方がいらっしゃいます。本当によくお出でくださいました。
そして新入生の皆様、ご家族や関係する皆様にご入学をお慶び申し上げます。

地震の当日、帰宅困難になった学生、教職員がこの講堂に集まり夜を明かしました。小、中、高校生に加えて避難場所を求めて来られた方々を含め、500名近い人々がこのキャンパスに留まることになりましたが、その時の教職員一人ひとりの誠実な振る舞いに、私は改めてこの大学の心の豊かさを実感しました。
多くの人が夜を明かしたこの講堂は「徽音堂」と名づけられています。「徽」は「よい、美しい」などの意味があり、「徽音」とは、「よい評判、よい音楽、よい言葉」を意味するといわれています。幼稚園から大学院まで、重要な行事に使われるこの講堂は、まさに本学の教育理念を象徴する空間といえます。ここに大勢の人が集まり、整然と、思いやりの心をもって過ごせたことは私には貴重な経験となりました。
そしてこの日以来、このキャンパスに集う人々の安全をどう確保できるかを改めて考え、同時に、お茶の水女子大学として社会に対して何ができるかを考えつづけてまいりました。正しい答えが得られているわけではありませんが、人々の安全を最優先しながら、可能な限りこの大学に課せられている使命を遂行することが大切だと思っております。また、短期的には勿論、中長期的にも自らがなすべきことを判断し、行動することが重要だとも思います。

地震直後には、大学に備蓄していた物の一部を被災地におくり、その後、被災した学生を支援する取り組みを開始し、また、節電のための対策を講じながら、特に夏の計画停電に備えて授業日程を組み直しました。さらに、放射能に対しては、本学のラジオアイソトープ実験センターで常時測定を行い、その報告を受けております。
当面の事態に対してこれらの対応をしながら、長期的な支援を続け、本学の務めを果たして行きたいと考えています。それは、高度な研究に裏付けられた教育を教授し、社会を発展へと導く女性リーダーの育成です。
136年の歴史を通して、本学は多様な分野で活躍する女性を社会に送り出してきました。設立当時は教育界のリーダーを育成し、日本の教育水準を高めることに貢献してきました。今では、卒業生が活躍する分野は教育関係ばかりでなく、きわめて多岐に渡っていることも、本学の特徴といえます。そしてこの多様性は、本学の教育システムの特徴とも関連していますが、それを可能にしているのが学部間の壁の低さです。本学の教員は一つの大学院研究科に属していて、日常的に意見を交わし、交流を深めています。教員組織のこのようなあり方によって、学生もまた専門を深く学びながら、同時に、隣接する分野や他の領域の知識を広く抵抗なく学ぶことができているようです。
この特徴を活かして、今年度からは新たに「複数プログラム選択履修制度」を開始します。学生の主体性を重んじて、それぞれの関心に沿って専門性を深め、あるいは領域を横断して広く学ぶことができる履修制度です。これは、3年前から開始した「21世紀型リベラルアーツ教育」とともに、本学独自の教育プログラムです。
今年度入学した皆様は、学生の主体性を重視したこのカリキュラムを履修する最初の学年に当たります。「主体的であること」は、自らが判断し決断することを必要とします。それは簡単なことではありませんし、それには正解もありません。失敗と思ってしまうこともあるかもしれません。ですが、大学は失敗することを学ぶ場でもあります。しかも、身近に優れた先輩や教師がいます。学生と教員の距離が近いこともこの大学の特色ですので、この環境を存分に活かしてください。この大学が少人数であることの、そして少数精鋭の大学であることの、強みはここにもあります。学生時代の苦労や工夫はきっと将来飛躍する力となることでしょう。

このように多様性と主体性を重視することはお茶の水女子大学の特色ですが、さらに、「共にあること」「共に成長すること」を今特に大切にしたいと考えています。
今年度新たに学生寮を開設しましたが、この学生寮を、お茶大SCC(Students Community Commons)と名づけました。その理念は、「共に住まい、共に学び、共に成長する」というものです。平成19年に本学の附属図書館にLearning Commonsという空間を作りましたが、そこでは「共に学び、共に成長する」ことを理念としました。そして今回は、さらに「共に住むこと」をコンセプトに加えました。いずれの場合にも、「共にあること」「共に成長すること」がキーワードです。
また、今日皆様のお手元にお配りする資料を入れたバッグは、お茶大のオリジナルですが、この購入代金の一部は途上国の女子教育支援に役立てられることになっています。つまり、このバッグは、これによって支援を受ける人々と「共にあること」の証ともいえます。
どのような状況にあっても、私たちは「共に生き、共に成長すること」が大切ですが、特に現在のような事態の中で「共に生きること」を心に留めてゆきたいと考えています。それは、社会の中で生きる人を育てる大学の、そして特にリーダーとなる人を育てることを使命とする本学の基本姿勢でもあるからです。

思い起こせば、お茶の水女子大学がこの地をキャンパスとすることになったのは、現在の御茶ノ水にあった校舎が関東大震災で焼失したからでした。そして震災の9年後、女性の高等教育の拠点として新たにこの大塚に大学本館とこの講堂が竣工しました。いわばこの講堂は女性の高等教育の象徴であると同時に、震災からの復興の象徴でもあったともいえます。いまこの時、この大学で優れた女性を育成し、そしてお茶の水女子大学として日本の復興の一端を担ってまいりたいと思います。
皆様とご一緒に、お茶の水女子大学が、そして一人ひとりが、なすべきことをなし、四年後の卒業の時には日本の復興の兆しを確かに見出すことができますように共に努力をして参りましょう。一日一日、私たちが出来ることを精いっぱい実行することが、今生きている私たちの使命であるように思います。

例年ですと来賓にもお出でいただいて華やかに行う入学式を、簡素にしてではありますが、安全対策を講じて実施致しました。それは、新入生をできる限り予定通りにきちんと受け入れ、一日を、そして一時を大切にしながら勉学に励んでいただきたいと考えてのことです。
今日から皆様がこの大学で充実した日々を送られますように、私たち教職員一同精一杯の努力をして参ります。皆様と共に、輝かしい未来を築くために今日ここから新たな一歩を歩み始めましょう。
改めて皆様のご入学を心からお祝い申し上げます。

  平成23年4月6日

お茶の水女子大学長
   羽入 佐和子

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